社会起業家ストーリー

~遊休農地を使って仕事を創る六次化NPO~ NPO法人南アルプスファームフィールドトリップ 理事長 小野隆さん

社会起業家になるきっかけ

南アルプス市で次々と新たな活動をはじめ、雇用を生み出している南アルプスファームフィールドトリップと小野さん。そんな小野さんもはじめから、現在行なっているグリーンツーリズムに強い関心があったわけではないそうです。

そんな小野さんにとってのきっかけは、2003年に参加した農業大学校主催の農業者向け冬季講座でした。そこで講師を務めていた、NPO法人えがおつなげての曽根原さんの「農業は1億円ビジネスになる」という言葉に、小野さんは半ば疑いつつも興味を持ちました。小野さんは、さくらんぼの観光農園を営んでいたので、「観光」と「農業」にはそもそもなじみがありました。そして何より、大学時代から農業に関する新しい情報には常に強い関心を持っていたこと、若手農業者達のネットワークにも加わっていたことが、小野さんを次なるステップに導いたのです。

ソーシャルチェンジをおこしたこと

きっかけとなった講座の翌年、農業者がグリーンツーリズムを企画・実践する取組みを山梨県が支援することになりました。小野さんはさっそく、仲間の農家3人を誘ってグリーンツーリズムのイベントを実施しました。最初のイベントは、ブドウ園を会場に、果物狩りと、手打ちのほうとう作り、堆肥づくりに、乗用草刈り機のゴーカート体験というメニューでした。自分達の農園のお客さんたちを中心に無理のないスタイルではじめたイベントは、毎月のように新しい企画を考えながら、参加者も増えていきました。

一方で、小野さんは、グリーンツーリズムは農業作業のない冬の農閑期における畑遊びと考えるととても楽しいイベントだけれど、それだけでは儲からないということにも気付いたのです。

新たなビジネスモデルを模索していた、ちょうどその頃、小野さんは市町村合併に伴い、市内の加工施設が使えるという情報に出会ったことで、それまでやってきたさくらんぼ狩りと、ジャムづくりを合わせた新しいグリーンツーリズムを思いつきました。この企画は大当たりしただけでなく、参加者が作ったジャムの残った分を、農園で販売したところ、あっという間に売れてしまいました。小野さんは早速、他の農家にも声をかけつつ、加工施設の農家女性部の加工グループの方にお願いをして、さくらんぼジャムをどんどん作ってもらい、初年度で3,500本ものジャムを完売してしまったのです。

しかし、あまりに忙しすぎたため、女性グループからは次年度のジャム作りを断られてしまうこととなりました。それなら自分達でなんとかしようと決め、2005年、NPO法人化し、地域の畑を活用したグリーンツーリズムイベントと農産加工を組み合わせた活動を開始しました。

次の転機が訪れたのは、南アルプス市の商工会が始めた「南アルプス完熟フルーツプロジェクト」への参加でした。体験イベントと農産加工のノウハウをこの事業で取り組みたいという小野さんの提案に、商工会も乗ってきたのです。このツアーは、その後、「完熟フルーツツアー」としてJRのびゅう商品としてとりあげられ、シーズン中は毎日のように開催される人気ツアーとなりました。また南アルプス市の特産であるスモモを、カットフルーツやピューレに加工する事業を商工会から請け負い、それを地元のお菓子屋さんに使ってもらうなど、商工会との連携によって、農産加工の量と、幅が広がり、さらに販売先の拡大も進みました。

そんな中、山梨県から、遊休農地をイベントで活用できないかと打診されました。小野さんは、それまで何度も行っている乗用草刈りゴーカート体験で遊休農地を綺麗にするイベントを提案しましたが、その頃から遊休農地をどうしたら楽しく活用できるだろうかと、気にかけるようになってきたのです。地域の遊休農地が増えていくことが課題となるなか、農家の視点では積極的に遊休農地を活用することはありませんでしたが、グリーンツーリズムの手法でなら遊休農地を楽しく活用できるのではないかと考えたのです。

「いま」と「これから」

農産物生産に向かず、耕作放棄された農地をイベントの会場として活用するという視点で、牛を使った草刈りや、ひまわり栽培による景観作りイベント、綿の栽培によるオーガニックコットン業者との連携など、次々と連携先を増やし、新たな雇用を生み出しています。
そして、東日本大震災が起きたとき、茨城で津波被害にあった農業青年に声をかけ、野菜づくりの担い手として雇用するとともに、福島県飯舘村で被災した和牛を受入れ、飯舘村での畜産の再開の際に子供を里帰りさせるプロジェクトもはじめました。農地を社会貢献に活用できる場にしつつ、新たな雇用を生み出す場にする活動を、小野さんはつづけています。